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福岡高等裁判所 平成7年(ラ)194号 決定

抗告人

九州日商岩井金属株式会社

右代表者代表取締役

荒谷忠爾

右代理人弁護士

中村隆

平井利明

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  申立の趣旨及び理由

別紙のとおり

第二  判断

一  債権調査期日に、届出破産債権に破産債権者から異議が述べられたのに、債権表にその旨の記載がされない場合には、これによって不利益を受ける関係に立つ者は、破産裁判所にたいして、債権表の記載の訂正を求めることができる。それは、破産法一〇八条により、旧民事訴訟法五四四条一項前段と同旨の民事執行法一一条一項前段が準用されると解され、債権表への債権調査結果の記載は個別執行における執行処分に準じるというべきであるから、同条の異議の申立として債権表の記載の訂正を求めることができると解するのを相当とするからである。この訂正を求める申立が破産裁判所によって棄却または却下された場合にはこれにたいして即時抗告をすることができることは破産法一一二条により明らかである。抗告人が原裁判所に提出した「更正申立」と題する書面の記載は民事執行法一一条一項前段準用による異議であり、原決定はこの異議を理由なしとして却下した決定であると認められるから、原決定に所論の法令適用の誤りはないし、本件抗告は適法である。

二  そこで、抗告人の民事執行法一一条一項前段準用による異議の申立の当否について検討する。

1  本件記録及び基本事件の記録によれば、次の事実が認められる。

(一) 基本事件(破産者福岡鋼板工業株式会社)における別紙債権者目録記載の債権者ら(以下「本件債権者ら」という。)の届出債権(以下「本件債権」という。)は、いずれも破産会社所有の不動産に設定された根抵当権の被担保債権である。その債務の内容は、①破産会社の代表取締役と抗告人の事務員が共謀して偽造した疑いが持たれている抗告人振出名義の多数の約束手形(以下「本件手形」という。)に破産会社が裏書をして、本件債権者らから手形割引を受けたことによる手形買戻債務と、②その余の債務とに大別される。

(二) 抗告人は、本件手形に関し、本件債権者らから、手形債権ないし不法行為による損害賠償請求権に基づき、手形金又は手形割引金相当損害金の支払を求める訴訟を提起されている。これに伴い、抗告人は、基本事件において、右訴訟に敗訴し支払を命じられた金額のうち自己の負担部分を超えて支払に応じた場合には、共同不法行為者たる破産会社に対して求償権を行使できるとの見解に基づき、額を不明とする破産債権の届出をしているものである。

(三) 本件債権は、平成六年六月一五日に開かれた基本事件の第一回債権調査期日において調査の対象にされたが、抗告人は何ら意見を述べなかった。破産管財人は本件債権について異議を述べた。

(四) その後、破産管財人は、本件債権者らの承認を得て前記抵当不動産を任意に売却し、売却代金から諸費用を控除した残額を本件債権者らに取決めに応じて配分した。

(五) ところが、抗告人は、平成七年九月六日に開かれた第四回債権調査期日において、右弁済額を控除した本件債権者ら各自の残額についていずれも異議がある旨主張した。なお、破産管財人は、本件債権者らのうち福岡銀行の残額について異議を撤回し、他の債権者らの各残額についても異議を撤回する予定であることを明らかにした。

(六) 抗告人の右主張について、破産裁判所は、債権調査期日における他の債権者の適法な異議とは認められないとして、本件債権者らの債権表に抗告人から異議があったことを記載しなかった。

2  ところで、破産法二四〇条による債権の確定を遮断するためには、破産債権者は、当該債権が調査の対象とされている債権調査期日において異議を述べるか、異議を留保することを要し、何らの意見も述べずに当該債権調査期日を終了した場合には、他の届出債権の調査のために債権調査期日が続行されることがあっても、既に調査を終了した債権について異議を述べることはできないというべきである。この点につき、抗告人は、当該債権が調査の対象とされている債権調査期日において異議を述べなくても、基本事件における届出債権全部につき債権調査が終了する債権調査期日までに異議を述べることができる旨主張するが、破産事件の手続の発展性、安定性を著しく害することになり、右主張は採用できない。そうすると、抗告人は、本件債権が調査の対象とされた第一回債権調査期日において何ら意見を述べなかったのであるから、その後の他の債権のための債権調査の続行期日で異議を述べることはできないというべきである。

抗告人は、別除権付債権について債権調査の後に別除権の行使による一部弁済があり、その限度で債権届出の取下げがあった場合には、取下げ後の債権について新たに破産債権の届出があったものとして、改めて債権調査をすべきであり、したがって、他の債権者は、従前の届出債権について異議を述べたと否とを問わず、改めて異議を述べることができる旨主張する。しかし、本件債権は、第一回債権調査期日に調査が行われた後、別除権の行使によって全体の一部が消滅したものであり、これにより別除権で賄えない不足額が確定することになるが、届出債権の現存の有無、その当時の債権額の程度、優先権の有無、破産債権たる適格の有無等、破産法二四〇条により確定効を認められる事項、そのものは右第一回債権調査期日の調査の前後を通じて変更がないのである。したがって、弁済による一部債権消滅後の残余部分について新たな破産債権の届出があったとすることはできない。そうすると、やはり、抗告人は、第一回債権調査期日において債権全体に対する意見を留保しなかった以上、その後の債権調査期日にその一部について異議を述べることはできないというほかない。

抗告人は、更に、抗告人の第一回債権調査期日における本件債権の調査は同日までに届出られていた本件債権の内容を前提とするものであるところ、その届出の内容は本件債権調査期日以後に発生した弁済により変更をきたしている上、破産手続における弁済充当は債権者平等の原則により法定充当の方法によるべきであるのに、抗告人はその合意又は指定による破産法違背の充当方法により利益を害されたのであるから、破産法二三五条に依拠して続行期日において異議を述べることができると主張する。その主旨は、前記1(一)①の債権と前記訴訟の訴訟物との間には、前記のとおり法律的経済的に密接な関連があり、法定充当によるかどうかは、抗告人が、右訴訟において、予備的抗弁として前記売買代金による一部弁済を主張するについて重大な利害関係があるというにある。しかし、第一回債権調査期日の調査により、本件債権が現存すること、その当時の債権額、別除権の存在、破産債権たる適格の存在等破産法二四〇条により確定効を認められる事項、そのものは確定するのであって、抗告人の利害に関連するという、別除権によって賄えない不足額自体は、別除権の行使によって確定するのであり、調査によって確定するのではない上、別除権は破産手続によらずに行うものであり、その行使の方法として、抵当不動産を任意に売却し、その代金で複数の被担保債務の一部を清算するに際し、合意又は指定による充当が許されないとする合理的理由はないから(抗告人が援用する最高裁判所第二小法廷昭和六二年一二月一八日判決、民集四一巻八号一五九二頁は、不動産競売手続における配当金の弁済充当に関するものであって、本件に適切でない。)、結局、右主張は理由がない。

3  そうすると、抗告人の第四回債権調査期日における本件債権に関する異議は不適法であって、これを債権表に記載しなかった破産裁判所の措置に何ら違法、不当な点はない。

三  よって、抗告人の本件異議の申立を却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり、決定する。

(裁判長裁判官田中貞和 裁判官宮良允通 裁判官西謙二)

別紙〈省略〉

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